Share

第15話 その兄弟、本当に仲いいんですか?

last update publish date: 2026-07-06 16:15:13

「兄上!?」

そこに現れたのはエーリックの腹違いの兄であり、この国の第一王子オーウェンであった。

オーウェンの母は正妃オルメリア、エーリックの母は側妃エレオノーラであるが、二人の母親の関係は良好である。

だから今までエーリックとオーウェンの仲も悪くはなかった……はずだった。

「いったいそこで何を騒いでいる」

オーウェンが現れると、他の生徒達はさっと道を開けた。容姿は似ていてもオーウェンにはエーリックにない王者の風格が備わっているようだ。

「いくら学生食堂カフェテラスとは言っても限度があるぞ」

「周りの生徒達にも迷惑だよね」

赤髪の武骨な少年と白髪赤瞳アルビノの美少年がオーウェンに続いた。その居丈高な態度にウェルシェはわずかに顔をしかめた。

赤髪の少年はクライン・キーノン――ウェルシェの友人キャロルの婚約者である。

一方、アルビノの美少年はコニール・ニルゲ――オーウェンの婚約者イーリヤ・ニルゲ公爵令嬢の実弟だとウェルシェは記憶している。

さすがに聖女···様が顔面偏差値で選んだだけのことはある。ちょっと背は低いが透き通るような白皙の美少年だ。

だが、何にせよ王族同士の会話に許しもなく割って入るなど不敬である。しかも、王子であるエーリックに向かって嗜めるような二人の発言に、ウェルシェは内心でムッとした。

あまりにエーリックを軽視した態度である。

「ケヴィン先輩が僕とウェルシェの婚約に言い掛かりをつけてきたんです」

だが、もともとエーリックは被害者であり、彼に何ら臆するところは無い。怒りに任せず冷静に対応するエーリックはウェルシェ的にポイントが高い。

やはり、ケヴィンのような訳の分からない生き物より、エーリックの方が万倍も良いとウェルシェは心の中で改めて再確認した。

「それに王家を軽んじる発言もあって抗議していたところです」

「なに?」

エーリックに自分の側近を非難されてオーウェンは顔を険しくした。

「誤解です。決して私は王家に反意はありません」

ところが、直答を許されていないのに、ケヴィンが口を挟んできた。

そういうところだぞ、とウェルシェは心の中でツッコミを入れた。だいたい、エーリックを無視してウェルシェを口説いていたこと自体が王家を軽んじる行為なのに。ケヴィンにはその自覚がないのだろうか。

「私はただエーリック殿下が権力を使って不当に愛し合う者達を引き裂く無体を嘆いたに過ぎません」

その発言こそ王家への不満ではないか。それでも王家に反意がないと言うのだろうか。

(エーリック様は王家の一員だというのに、その区別すらついていないのかしら?)

ケヴィンはあまりにもエーリックを軽視している。その態度からはそうとしか思えない。

「待ってください。先程からウェルシェはずっとケヴィン先輩に好意を寄せてはいないと言っているではないですか」

エーリックの言葉にウェルシェはうんうんと頷く。ケヴィンのような支離滅裂な男を好きになる要素など、ウェルシェにはミジンコ程もないのだ。

「そうやって権力で以て私のウェルシェに虚偽を言わせるなど見苦しいですよ」

誰があなたのよ!——と心の中で絶叫するウェルシェであったが、王族同士の会話に口を挟むわけにはいかない。

だから先程からずっとウェルシェは口を噤んでいたのだが……

(オーウェン殿下の側近方が礼を欠いて口出ししているし……私も直答して良いのかしら?)

そうは思う。だが、これまでエーリックの歓心を買う為におっとりとした淑女を演じてきた。だからこそウェルシェは迂闊に意見も述べられない。

(うううっ、もどかしい)

自分で己に課した設定のせいでウェルシェは身動きが取れない。完全なる自縄自縛、自業自得。まったくもって因果応報である。

こんなウェルシェをカミラが見たら笑うか呆れるかのどちらかだろう。

「いい加減な事を言わないでください!」

「二人の仲が悪いとアイリスから聞いている」

「僕とウェルシェは良好な関係を築いています。それに、僕達の婚約は王家とグロラッハ侯爵家の契約でもあるんですよ」

「ほら、そうやってすぐ王家の権力を盾にする」

「ケヴィン先輩、あなたという人は!」

温厚なエーリックが珍しく声を荒げたが、それも無理はないだろう。それほどケヴィンは無礼を働いているのだから。

その時――

「そこまでにしろ」

それまで黙っていたオーウェンが言い争うエーリックとケヴィンの間に割って入ってきた。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~   第35話 その論争、ただの兄弟ゲンカじゃありませんか?

    「エーリック、そなたの言い分を訊ねたい」オルメリアの指名を受け、エーリックは居住まいを正して前に出た。「忌憚の無い発言をお許しいただけますでしょうか?」「許します。存分に意見を述べなさい」オルメリアは当然とばかり頷き発言を促した。「まず、グロラッハ嬢との婚約ですが――」エーリックは言質を取るとオーウェンの世迷い言を論破しにかかった。「私が母エレオノーラに懇請した事実はございません。この婚約は王妃殿下からの薦めであるのは周知の事実です」エーリックの言葉に国王、王妃だけではなく周囲の者達も頷く。「それに、グロラッハ嬢とはお見合いの場で初めて顔を合わせたのです。兄上が糾弾された横恋慕などありようはずがありません」「なるほど……」オルメリアの相槌にエーリックは内心でホッと安堵のため息を吐いた。このような論争ではもっと婉曲な表現をしなければならないのが貴族の世界。「次に王族に逆らえずグロラッハ嬢が婚約を承諾したとの話ですが――」だが、オーウェンが直接的に難詰してきた以上は、エーリックもそれに応じなければならないと判断したのだ。だから、はっきりとオーウェンを批判した。「それを言ってしまえば私は誰とも婚約できなくなってしまいます」「その通りですね」この場の誰もがエーリックの主張に頷いた。エーリックに支持が傾いている。オーウェンはジリジリと焦り始めた。「それにグロラッハ嬢は私との婚約を快諾してくれました」「だから、それはグロラッハ嬢が貴様に逆らえず&helli

  • あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~   第34話 その第一王子、本当に短絡的じゃないですか?

    第34話 その第一王子、本当に短絡的じゃないですか?「……と言うわけで、ケヴィンとウェルシェ嬢の仲を引き裂き、婚約を無理強いするのは王家の横暴と謗りを受けましょう」王座の前でオーウェンは意気揚々と弁舌を繰り広げた。――今こそ過ちを正す時!オーウェンは正義に燃えているのだ。二週間程前、彼は息巻いてエーリックの婚約を破談にするよう国王に直談判した。だが、予想に反して国王からけんもほろろに突っぱねられてしまった。アイリスから聞いた話によれば、ウェルシェはケヴィンを恋い慕っている。ならば、エーリックとの婚約は権力で強いられたに違いない。(なんと憐れな)あの触れれば消えてしまいそうな頼りなさげな美姫が、王家の威光に抗えず涙する様を思い浮かべ、オーウェンは騎士道精神を滾らせた。(父上は側妃エレオノーラを寵愛しているからな)横恋慕したエーリックが母親に頼み込んで国王を誑かしたに違いない。そんな|推測《もうそう》にオーウェンは憤慨した。そこに国王からの呼び出しがあり来てみれば、エーリックやセギュル侯爵など例の婚約の関係者が揃っていた。これは絶好の好機とオーウェンは喜色を浮かべた。(きっと母上が御正道へと正そうと動かれたに違いない)そう信じてオーウェンは皆の前で朗々と自説を披露し、エーリックを糾弾したのである。「今からでも遅くはありません。即刻この縁談を取り止めケヴィンとウェルシェ・グロラッハの婚約

  • あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~   第33話 その側妃様、化けの皮剥がれてませんか?

    「陛下も愛する側妃の子なら否なはないでしょう?」息子を切り捨てるのは母として苦渋の選択。だが、一国の国母として、それも止む無しなのだ。「ダメです!」ところが、エレオノーラが絶叫するように反論した。「それはいけません!」「どうしてかしら?」凄い剣幕で反対するエレオノーラに、オルメリアが小首を傾げて頬に人差し指を当てた。「最近はエーリックも頑張っているじゃない」「はい、殿下は気弱なところもありますが、己の足りない部分を補おうと日々研鑽されておられる奇特なお方です」ジャンヌも頷き同意を示した。「加えて伴侶となるウェルシェさんの器は王妃になるに不足はありません」「ふふふ、これでエーリックの立太子に何の問題もないわね」勝手に話しを進める二人に慌てたのがエレオノーラだった。「あります! あります! 大ありです!」エレオノーラはバンッとテーブルに手を突いて立ち上がった。「エーリックは王位を望んでいないもの!」「それは関係がないわ」オルメリアは頬杖を突いて王妃らしからぬ態度でエレオノーラを横目で見る。「エーリックとて王家の男児としての自覚くらいあるでしょう?」「それは……だけど……メリー様はご自分の子供が王位を継げなくても良いのですか?」「できればオーウェンには立派な王になって欲しいわ」「だったら!」食い下がるエレオノーラにオルメリアは

  • あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~   第32話 その王妃様、本当に可哀想ですか?

    「私の最大の失敗はオーウェンの婚約者選びね」「どうして?」ため息を吐くオルメリアにエレオノーラは不思議そうに小首を傾げた。その仕草はとても三十路を越えているとは思えぬ愛らしさがある。「イーリヤさんはとても優秀で良い子だわ」「そうね、彼女は才気煥発で人格にも問題の無い素晴らしい令嬢ね」――イーリヤ・ニルゲ公爵家の血筋と品位、恤民と義心の溢れる人格。加えて独立した商会を切り盛りする才覚もある。能力、人格ともに将来の王妃として不足はない。そう判断したからこそオルメリアはオーウェンの婚約者にイーリヤを選んだのだ。「だけど、イーリヤは真っ直ぐ過ぎたのよ」「それはいけない事かしら?」エレオノーラの問いにオルメリアは首をゆっくりと振った。「本来ならいけなくはないわ。問題なのはオーウェンとの相性よ」「ええ、彼女は素直に自分の有り様を示しすぎました」オルメリアの言にジャンヌが追随した。。「きっと自尊心の強いオーウェンにはそれが耐えられなかったのね」だからアイリスの甘言に踊らされてしまった。「正直は美徳ですが、イーリヤさんはもう少し自分を隠す術を知るべきでした」「まだ十代半ばの彼女に己の才能を隠すなんてできっこないわ」ジャンヌの指摘は酷というものだとオルメリアは苦笑いを浮かべた。「ウェルシェが異常過ぎるのよ」才気あふれる若者が自らの能力を周囲に誇示するのはあたりまえである。本来、韜晦する術は歳と共に覚えるもの

  • あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~   第31話 このお茶会、本当にお開きですか?

    「ごめんなさいね、残ってもらって」「王妃殿下のご用命なれば否やはございません」王妃オルメリアの詫びにシキン伯爵夫人ジャンヌは粛々と目礼を返した。お茶会はお開きとなった。異様な空気の中で続けても意味はあるまい。そうオルメリアが判断したからだ。会場に残っているのはオルメリアとエレオノーラ、そして呼び止められたジャンヌの三人だけ。「それに、私も王妃殿下にお詫び申し上げねばならないことがございましたので」そう前置きしてジャンヌは頭を下げた。「先程はオーウェン殿下を貶めるご無礼を……」「謝罪は不要です」だが、オルメリアはジャンヌの謝辞を遮った。「謝らなければならないのは此方なのですから」「王妃殿下に何の咎がございましょう」「いいえ、私共が無理を言ってオーウェンの側仕えになってもらっておきながら、息子の愚行を止められませんでした」そして、頭こそ下げられなかったが、逆にオルメリアが謝罪したのだ。「王妃殿下!?」これには冷静沈着なジャンヌは仰天した。王族が臣下に対し頭を下げるなど通常ではあり得ない。「そもそも私がオーウェンの教育を間違えてしまったのがいけなかったのでしょう」「王妃殿下、古今東西聖人君子であっても我が子の教導を誤るものです」同じ母としてオルメリアの苦悩をジャンヌは理解できる。「私のような貴族とは違います。王族は求められるものが多すぎ、子の教育を困難にしているのです」「私はオーウェンに多くを求め過ぎたのかしら?

  • あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~   第30話 その王妃様、魔王と手を組むんですか?

    「あ、あなた、いったい何を言って……?」ウェルシェのトンチンカンな言動にオルメリアは戸惑った。それは他の夫人達も同じようで、みな一様に困惑している。「えっ、ですから、シキン夫人は何処かへ行かれるのですよね?……かなり遠方の国へご旅行されるのでしょうか?」ウェルシェが的外れな返事をするので誰もが呆気に取られた。もちろん、ウェルシェだって完全なる曲解であることは百も承知している。「他の国へ行って見聞を広められるなんてとても素晴らしいですわ」だが、ウェルシェは貫き通した。今は多少苦しくても強引に話題を変え、一気に自分の土俵へと持っていく力技こそ有効。どこかトボけたウェルシェの腹黒交渉術の一つである。おっとりした不思議ちゃんを演出していたのも、この交渉術を成功させるのに大きく寄与していた。「えっ、ええ……そうですね」話を振られたジャンヌも対応に困って曖昧に頷いた。「本当に素敵!」ここまで来ればもうしめたもの。再びウェルシェの手の平の上だ。「シキン夫人はそうやって見識を深めてこられたのですわね」「はい?」ジャンヌはいまいちウェルシェの意図を掴みかねた。いや、それはオルメリアを始め会場の誰もが同じであろう。「夫人のお言葉に私とても感銘を受けましたの」「私の……ですか?」いったいそれはどの言葉?ジャンヌは更に困惑した。普通に考えれば、オルメリアへの諫言だろう。だが、ウェルシェがジャンヌの諫言をうやむやにしてしまおうとして

  • あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~   第5話 その新入生代表、本当に幻想的ですか?

    ――マルトニア学園入学式の日校門から校舎へと続く道にスリズィエの花びらが舞う。奥へと更に奥へと進めば、入学式が執り行われている大講堂へと続く。その中には今年入学する新入生とその保護者が集まっていた。「新入生代表ウェルシェ・グロラッハ」式が進行していく中で、一人の少女の名前が呼ばれた。「はい」凛とした声が講堂の中に響いた。

  • あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~   第4話 その恋愛観、本当に大丈夫ですか?

    「私ってそんな尻軽な女に見える?」四阿に戻ったウェルシェの愚痴にカミラは首を傾げた。「いきなりどうなさったのです?」「さっきエーリック様が仰っていたでしょ?」お茶を注ぎながらカミラは、ああと得心がいった。「お嬢様が他の男に心移りするかもってやつですか?」それよそれとウェルシェは不満そうに口を尖らせた。そういう幼い振る舞いは年相応に可愛いなとカミ

  • あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~   第3話 その入学、本当に必要ですか?

    「エーリック様、いらっしゃいませ」「やあ、また来たよ、ウェルシェ」ウェルシェの予想は大当たり。「迷惑じゃなかった?」「そのようなことありませんわ」エーリックは儚げで、庇護欲を掻き立てるようなか弱い女性が好みだった。足繁く通う彼はウェルシェのかまととの完全な虜である。「エーリック様にお会いできて私はとても嬉しいですわ」「えへへへ、そ、そう?」ウェルシェの笑顔にエーリックがデレデレになる。手のひらでコロコロ転がされているとも知らずに。端で見ていたカミラはなんとも完璧な猫かぶりだと感心するやら呆れるやら。もともとウェルシェは幼少期より儚げな深窓の令嬢を演じて、海千山

  • あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~   第2話 その侍女、本当に忠実ですか?

    「名残惜しいですが、そろそろ帰らねばなりません」「まあ、もうそんな時間なんですの?」「楽しい時間はあっという間ですね」エーリックが器用にウィンクすると、ウェルシェがパッと花が咲くように笑った。「また、あなたにお会いできる日を楽しみにしております」「私も楽しみにお待ちしておりますわ」潤んだ瞳でウェルシェから可愛く見上げられ、エーリックはすっかり舞い上がってしまった。(これって、ウェルシェも僕に恋しちゃってるんじゃない?)エーリックはカッコよく颯爽と帰るつもりだった。だが、顔は締まりがなく、足取りも地につかずふわふわして覚束ない。「あらあら、あんなにフラフラして大丈

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status